様々な波乱やドラマが生まれた2021年全仏オープン。
最終的にBIG3vs次世代の構図となった決勝戦は、大逆転でノバク・ジョコビッチが勝利し、2回目の全仏優勝、GS通算19回目の優勝、そしてオープン化以降初となるダブルグランドスラムを達成しました!
今回はこの決勝戦を振り返りつつ、戦術やターニングポイント、各選手の使用アイテムなど、どこよりも細かくレポートします。
<TOPICS>
ジョコビッチが2回目の全仏優勝でダブルグランドスラムを達成
Embed from Getty Imagesステファノス・チチパスとの5セットに及んだ決勝戦を制し、自身2回目となる全仏優勝を成し遂げたノバク・ジョコビッチ。
これによってジョコビッチはグランドスラム大会通算19勝目、そしてオープン化以降初となるダブルグランドスラムを達成したのです。
そもそも”ダブルグランドスラム”とは
ダブルグランドスラムとは、4大会(全豪、全仏、全英、全米)をそれぞれ2回以上制覇する事。
GS通算20勝のフェデラー、ナダルも成し遂げていなかった偉業なのです。
Djokovic | Federer | Nadal | |
全豪 | 9 | 6 | 1 |
全仏 | 2 | 1 | 13 |
全英 | 5 | 8 | 2 |
全米 | 3 | 5 | 4 |
通算 | 19 | 20 | 20 |
こちらがBIG3の各GSの優勝回数一覧。
フェデラーは全仏、ナダルは全豪での優勝が1回だけで、ダブルグランド未達成となっているのです。
コートとの相性を考えるとフェデラーがもう一度全仏制覇というのはかなり厳しいはず。
ナダルの全豪も、ジョコビッチが健康をキープ出来ている限りは相当難しい状況と言えそう。
34歳となったジョコビッチですが、衰えないフットワーク、精度の高いストローク、サーフェスを選ばない強さ、大局を掴む勝負勘、メンタリティー・・・GS20勝達成は堅いと言えそうです。
2セット先行:勝利目前に迫ったチチパス
Embed from Getty Images惜しくも準優勝となったステファノス・チチパス。
より一層逞しくなったフィジカルによる攻撃力、ネットプレーも含めた戦術の豊富さ、そして以前よりも安定したメンタリティ。
この決勝戦でもジョコビッチ相手に打ち負ける事なく、1st/2ndセットを連続で奪い2セットアップ=優勝まであと1セットのところまで迫りました・・・
7-6(8-6),6-2,1-1までは圧倒的優勢に見えたが・・・
リアルタイムで観戦していた人たちも「チチパスが2セットアップ、優勝出来るかも!」と思う一方、「ジョコビッチの事だからここから逆転とかあり得る・・・」と警戒していた人たちも多数見受けられました。
中盤以降、Twitterでのみんなのリアクションはこんな感じでした!
怖いんですけど…
— ポップテニス (@poptennis_) June 13, 2021
相手人間じゃないからなぁ
多分ジョコビッチ、2セット終了時のトイレットブレークで充電したか、再起動したか・・・人間じゃないっていうのが嘘とも言えなくなってきた(笑)
クロスラリーで勝てないとみるやドロップを積極的に使うジョコビッチ。怖い怖い。
— hiroo_shimoda (@hiroo_shimoda) June 13, 2021
2セットの中盤以降、それまでのクロスラリーを避けドロップショットを多用し始めたジョコビッチ。
打ち合いを避け体力温存(+チチパスの体力消耗)もあったと思いますが、これが良いタッチで決まってたので・・・余計不気味な感じありましたよね。
やばい、お風呂入るタイミング完全に逃した💦
— イズ嫁@ただのテニス好き (@tennisac25) June 13, 2021
チチパス凄いけどジョコビッチにまだ余裕ある感じが怖い😱
データ収集は終わって3セット目からが本番だよって言わんばかりの表情に見えちゃう😱
チチパスこのまま押し切れー
この日、一体何人の人がこの試合のせいでお風呂に入るタイミングを逃した事でしょう(笑)
やはり2セット先行されても、底知れない怖さを放っていたジョコビッチ。
(そしてその恐怖が現実のものとなったわけですが・・・)
戦術:二人の激戦から学べる事とは
ここからはこの決勝戦から、戦術やメンタリティの部分から、非常に興味深かったポイントをピックアップ&解説。
チチパス:前に入って叩き続けた片手BH
Embed from Getty Images特に1st/2ndセットで印象的だったのがチチパスの片手バックハンド。
ポジションはあまり下げず、トップスピンで打ち抜き続けていました。
リターンも含めて、スライスでつなぐ場面がほとんどありませんでした。
・後ろから前に入る動きを徹底
(下がりながら打たない)
・しっかり振り抜く
・身体のバランスを崩さない
この3つがほぼ完璧に出来ていたのが序盤のチチパスでした。
基本的なことを言ってるように見えるかも知れませんが、対ジョコビッチでこれを遂行出来る片手バックの選手はほとんどいないのではないでしょうか。
実際3セット目以降はスライスを選択する場面が増え、序盤のような優位性を築くのが難しくなって行きました。
ジョコビッチ:クロスの精度は異常www
Embed from Getty Images序盤先行されたものの、試合を通じてジョコビッチのストロークの精度・安定性は超人的とも言えるレベルを保ち続けました。(それこそ凄すぎて”草”)
・クロスの精度/安定性がすごい
・走らされてもクロス深くに返る
・クロスがいかに重要かを体現
特に見習いたいと感じたのが、ストロークの基本とも言えるクロスコートへのショット。
フォアでもバックハンドでも、左右に走らされても、相手のボールが速くても、ほぼ確実にコートの半分より奥に返せる凄さ。
チチパスの超人的ストローク以外では、ほとんど簡単に失点することがない・・・これがジョコビッチの強さの根底にあるのかなと。
市民大会でも、クロスに強いボールを安定して打てる人を崩すのって本当無理(笑)
中盤以降は積極的なストレートも増え(もちろんこれも精度がすごい)、チチパスに良い体勢で打たせる場面をどんどん減らして行きました。
捨てセットを作れる俯瞰力があるジョコビッチ
Embed from Getty Images安定したストローク、優れたフットワークとスタミナがあるジョコビッチですが、特に5セットマッチのグランドスラムでは戦略的に”捨てゲーム” “捨てセット”を駆使できる「俯瞰力」・「大局観」がずば抜けている事を改めて証明しました。
今回の決勝でも、2セット目中盤以降はラリーを避けたドロップショットの多様、厳しいショットに対しては深追いしない、確率は多少無視したフラット系ショットも混ぜるなど、セットは落としたとしても相手を消耗させる・惑わせる選択肢を積極的に活用していました。
・戦略的な捨てゲーム/セット
・俯瞰力がすごい
・相手を消耗させる,惑わせる
このような戦術的な”捨てゲーム”や”捨てセット”を上手くコントロールしていた選手としては、(タイプは違いますが)サンプラスも挙げられるのではないでしょうか。
サンプラスは抜群のキープ力が軸にあるため、「1セットの間で1回ブレーク出来ればOK」「ブレーク出来なくてもタイブレークで勝てばOK」というスタンス。
打ち合いやスタミナには不利なタイプの選手だった事もあり、相手サーブで先行されている場合や、厳しいショットが来た時にはあっさり諦める場面が多々ありました。
ジョコビッチも大ベテランの域に入り、こういったマクロな視点からの戦い方がより一層磨きが掛かったように見えました。
(ナダルは真逆なんだが・・・笑)
クラシックなスペックのラケットがトレンド?
ここからは二人の使用アイテムに注目。
ラケットのパワーアップが注目されがちだったテニス界でしたが、この二人のラケットは21mm厚のボックス系と意外にもクラシカルなスペック。
やはり190cm前後の身長でありながらも、高い身体能力を持っている選手がATPのトップを占めるようになりつつあり、過剰なラケットパワーは必要とされなくなりつつありるのかも知れません。
今まで以上に高い精度のショットが求められている、というのが背景にあるのかも知れません。
ナチュラルハイブリッド / 4G単張り
ジョコビッチは縦にナチュラル、横にルキシロン・アルパワーを組み合わせた、ハイブリッドを使用。
一方のチチパスはルキシロン・4Gを単張りで使用。
市場的には多角形ポリも増えてきましたが、意外とトッププロには角ばったストリングを使う選手は少ないようです。
(ナダルのRPMブラストもあまり角は立ってない8角形なので)
まとめ:2021全仏決勝を振り返る
・ジョコビッチが2回目の優勝
・ダブルグランドスラムを達成
・チチパスも勝利目前まで迫る
・二人の激戦から学ぶ戦術
・クラシックスペックがトレンド?
・ストリングも丸型