ハードスペックなラケットで大会挑戦。
今回はハードスペックなラケットを使用して大会に挑戦をしてみました。
大会までの道のりやセッティング、緊張する試合を複数こなして感じたハードスペックを使うメリットやデメリットについてまとめています。
この記事におけるハードスペックの定義
・薄い(21mm以下)
・重い(310g以上)
・小さい(97平方インチ以下)
この記事でハードスペックと呼ぶのは上記の要素を概ね満たしたモデルであり、ざっくり言えばラケット自体がボールを楽に飛ばしてはくれないもの、もしくは自分の体力・筋力に対して飛びや性能が控えめなものですね。
ここ数年でインプレしたラケットでハードスペックだと思たのはパーセプト97D、ピュアストライクVS、プリンス・ツアー95、ファントムグラファイト93、プロスタッフ97・RF97、ウルトラツアー95CVなどですね。
バボラ・ピュアストライクVS(2022)を使用
今回使用したのはバボラ・ピュアストライクVS(2022年モデル)です。
モデル名 | ピュアストライクVS (2022年モデル) |
フェイス サイズ | 97平方インチ |
重量 | 310 g |
バランス | 310 mm |
スイング ウェイト | SW295 |
フレーム厚 | 21-22-21 |
フレックス | RA67 |
ストリング パターン | 16×20 |
フェイスは97平方インチ、重量は310g(※実測値は313g)、フレーム厚は21-22-21mmとなっており、概ね前記の3要素を満たしています。
ハードスペックの定義の中ではまだ優しいほうですが(笑)、バボラの現在のラインナップの中では間違いなく最もハードなスペックとされているモデルです。
ハードスペックは敬遠していた筆者
ただこのピュアストライクVSを発売当時に買わなかったのは、どう考えても自分にはハード過ぎるスペックだったから。
というのも筆者がこの2,3年で好んで使用していたラケットの多くが290g以下のフレームをライトチューンして300g以下に収まるモデルばかりだったのです。
フェイスサイズも98~100、フレーム厚も23mm以上と、振りやすさだけではなく反発力もある程度発揮されるモデルばかり。
ハッキリ言えばハードスペックなラケットは選択肢に入らない、敬遠していたとカテゴリーだったのです。
パワーのあるラケットに慣れた30代後半の筆者が、今改めてハードスペックで大会に出てみたら?という検証・実験をしてみました。
シングルス大会:セミ・オープンに参戦してみた
今回は美浜テニスガーデンで開催された男子シングルス、セミ・オープンクラスに出場してきました。
インドアハードコート(※デコターフ)、16ドローのトーナメント、デュースありの大会でした。
ストリングはPTファイア125+PTストライク120のハイブリッド、42ポンドで張り上げています。
結果:準優勝でした
結果的にはセミオープンクラスで準優勝でした!
3試合に勝利して決勝に進出、最後は3-6で敗戦となりました。
ネットに積極的に詰めてくる相手、ベースラインから強いボールを打ってくる相手、様々なタイプのプレイヤーたちとハードスペックで全4戦をこなしてきました。
ハードスペックにして良かったポイント
・フラットサーブが速くなった
・重さによる伸び、飛距離
・リターンがコンパクトに打って返せる
・スライスがコントロールしやすい
準備から大会本番までを通じて感じたハードスペックの大きなメリットはこの4つ。
フラットサーブは普段よりもだいぶ速くなった
ハードスペックと言えるピュアストVSに持ち替えて一番違いを感じたのは、フラット系のサーブが速くなったという点。
面の小ささ・フレームの薄さによる空気抵抗の少なさは振り抜きやすく、回転が掛かり過ぎずに前方向に力を伝えられるという2つが相まって、普段以上の球速が引き出せたのだと思います。
戦った相手からも「サーブが良いですね」「速かったです」というフィードバックをもらえたのは嬉しかったですね。
重さよるショットの深さ・伸びを感じられる
300g以下のラケットを使っていた時と比べ、ラケットの重さによってショットに深さや伸びが出ているように感じられました。
特にゆったり大きくスイングした時に違いが顕著で、普段の50%くらいの力感で振ったはずなのに相手コートのベースライン近くまで飛んでくれました。
リターンをコンパクトに合わせても返せる
重さによる好影響はもうひとつあって、相手の速いボールに対してもコンパクトに合わせるだけで打ち負けず、意外と深くに返球出来る・ラケットがブレることもないという点。
特にセンターに飛んできたサーブに対して流し打ちするような感覚で打つと、逆クロス方向深くに良いリターンが安定して飛んでくれました。
軽いラケットだと上にふかす・ショートするという事が多かったため、ハードスペックにして大きく感覚が変わり感動すら覚えました。
スライスのコントロールしやすさ
重量が増えたことで重みによるダウンスイングが引き出しやすく、スライス系のショットは力まずに深さを出せる・コースを狙えるというのは大きなメリットに感じました。
大会でもしつこく相手のフォアにスライス・ストレートを連続して打つ場面などがありましたが、予期せぬコントロールミスなどは最小限に抑えることが出来、ハードスペックならではの安心感を味わう事が出来ました。
ハードスペックにして良くなかったポイント
・振り回すのはエネルギー消費大
・スピンが打ちにくい、返しにくい
・コートカバーリングの悪化
・球際の返球率
・フォームを変えたら怪我しそう
↓↓
自分の事で精一杯
ハードスペックには大きなメリットがある一方、当然ながらデメリットも存在しています。
端的に言えば自分の事で精一杯になってしまい、相手の様子を観察したり、相手と駆け引きすることが難しくなるのが一番のデメリット。
速いスイングで振り回すのはエネルギー消費大
ゆったり大きく振れば球が伸びるハードスペックですが、速いスイングで振り回したりするのはエネルギー消費が大きく感じました。
速いテンポのラリーや瞬間的に反応して振り抜くような時、左右に走らされている中でのストロークなど、体勢が100%整っている状態以外では重さやシビアさが消耗を速める要素になっているように感じました。
スピン系ショットの打ちにくさ・返しにくさ
今回の大会はインドア・デコターフでスピン系のボールがバウンドしやすく、高い打点で打たされると非常につらかったですね。
十分なスイングの大きさ・速さを引き出すことが出来ず、飛距離が出ずにショートやネットしてしまうことが多かったです。
逆にこちらがそういった高めの弾道のスピンを打とうにも、余程速いスイングでもない限りは良い高弾道スピンにはならないので・・・頑張って振ってる割に無駄なエネルギー消費になってしまいがち。
コートカバーリングの悪化
ショット以外にも影響はあって、どうしてもコートカバーリングが悪化してしまう傾向がありました。
十分な体勢やゆったり大きなスイングを意識しすぎると動きの連続性が切れがちだったり、重いラケットを振ろうとして力む・バランスを崩しがちだったりというのが影響しているかと思います。
球際・走らされた時の返球率の悪さ
球際=走らされてギリギリのボールを処理する場面で返球率が悪いのは気になりましたね。
コートカバーリングが悪くなりがちというのも影響していると思いますが、普段使っているラケットに比べると手を伸ばして打ったスライスやロブの精度が非常に良くなかったですね。
スライスの深さ、ロブの高さが出せず、相手の攻めをしのいでニュートラルに戻すのが難しかったです。
ラケットにフォームを合わせると怪我しそう
一定期間使ってみて「このままハードスペックに合わせるようにプレーしていたらいつか怪我しそうだな」と感じました。
ハードスペックと呼ばれるラケットの多くはストリングのピッチも狭くパワーも控えめ。
その結果としてショットの弾道は持ち上がりにくく低めに飛びやすい傾向があります。
そのおかげで直線的なボールを打ちやすいというメリットはあるのですが、スピンを掛けたり弾道の高さを調整するというのは難易度が高め。
対処法として普段よりも薄めの握り方で打つようにしていましたが、プレー後に手首に若干の違和感を覚えるようになってしまいました。
10年以上前に手首(TFCC)を痛めたことがあり、その時もハードスペック+薄めのグリップだったため苦い思い出がフラッシュバックしましたね。
それでもハードスペックを使いたい場合は?
ここまでメリットとデメリット、両方を正直に書き出してみました。
メリットは当然、デメリットがあるのは承知の上でそれでもハードスペックを使いたい!という人も一定数いるかもしれませんね。
そんな場合、ハードスペックに対してどう考えるべきなのかをまとめてみました。
プレーの幅広さよりもショットの質で勝負する
ハードスペックを使って実感しましたが、幅広いプレーをこなすというのには正直向いていないと思いますね。
色んな事を器用にこなそうとするよりも、1つの強みを前面に出して戦った方が効果的。
例えば今回のピュアストVSで言えばフラット系サーブが武器であり、回転系で確実に入れてストローク戦になってしまうよりも強気のサーブ2本を打った方が得点期待値は高いと思いますね。
もちろんダブルフォルトするリスクも高まりますが、そのリスクをコントロールして強気に戦えるようしなければ敢えてハードスペックを選ぶ意義は無くなってしまいます。
駆け引きは最小限に:相手にこちらの武器を押し付ける
テニスには色んな戦術・戦略・駆け引きが存在していますが、ハードスペックを使うのであれば相手との駆け引きは最小限にした方が良いかもしれません。
相手の出方を伺って対応するのではなく、こちらの武器や強みを強引に押し付けるような戦い方を意識しましょう。
というのもハードスペックを使いこなすためには標準的なラケットよりも脳=CPUの稼働率を多く使うことになる為、あまり余裕がない状態でプレーする事になります。
なのでそこで相手の動きや作戦を伺うためにCPUを使い過ぎるとすぐに限界が来てしまい、ショットのエラーが起こりやすくなります。
『自分が良いショットを打てさえすれば点は取れる』というくらいの強気かつ独善的なマインドで戦うのが吉。
セッティングの話:ストリングで楽になる?
ハードスペックに関わるコンテンツを発信していると「どういったセッティングなら使いやすくなりますか?」や「どのストリングなら使えるレベルに出来ますか?」といった反応を頂く事が多いんですよね。
ですのでここではハードスペックのセッティング、ストリング選びについて考察をしていきたいと思います。
ハードスペックもストリング次第で楽に扱えるようになるのでしょうか?
扱いやすくはなるかもしれないが強み・旨味は消えがち
ストリングを変化させることでハードスペックなラケットの使い心地、特性などをある程度変化させることは可能です。
しかしながらあまり極端なセッティングをしてしまうと、元々持っていたハードスペック特有の強み・旨みを消してしまう可能性があります。
たとえ話になりますが、今回使用したピュアストライクVSには最初ポリツアーファイア1.25㎜を45ポンドで張っていました。
サーブの速さなどが魅力的でしたが、スピンの掛けやすさやアシストには不満を感じていました。
そこで不満を解消するためにポリツアープロ1.15㎜を40ポンドで張ってみたりしたらどうなるでしょうか?
おそらく軽やかな飛びや引っ掛かりの良さは強調されるようになるでしょう。
しかしストリングのたわみ感が大きくなることでサーブの速さが出しにくくなったり、相手の強打を抑え込みにくくなったり、スピン量が増えた事でストロークも浅い位置に落ちやすくなるかもしれません。
使いやすくはなったけれど、相手には打ちごろのショットが増えた・・・なんてことになってしまっては本末転倒なワケです。
ストリング:ラケットのパワーを何%引き出せるかという係数
10代の頃からハードスペックとされるラケットをいくつも使って来て、セッティングも試行錯誤してきましたが、セッティングで楽にしようというのはかなり難しい、かなりコスパが悪いというのは間違いないです。
というのもストリング・セッティングはラケットの持っているパワーを何%引き出せるのかという係数に近い要素だと考えています。
ラケット自体が持っているパワーが100だったとして、ストリング次第でそれが90だったり70だったり、酷い時は40だったりと変動するイメージ。
ここでもしもハードスペックのラケットが持っているパワーが50と仮定した場合、100%性能を発揮するセッティングでも50という数値を超えることは出来ませんし、ストリング側でパワーを+50して合計100にするといった魔法のようなセッティングも存在しません。
なのでハードスペックのストリング選びに関して言えば、感覚や性能を微調整することは出来ると思いますが、いわゆる標準的なラケットのような飛びやスピン性能を目指して楽なセッティングをしようとするのは非推奨といった感じです。
最終結論:ハードスペックはハードスペック。
練習から試合までじっくりハードスペックを使ってみましたが、ハードスペックはハードスペックだなという至極当然な結論に至りました。
ハードスペックだからツラいんだけど、ハードスペックだからこそ強みがあるっていうこと。
ハードスペックへの理解・割り切りが大事。
ハードスペックを使うにあたって大事なのは「理解」と「割り切り」だと実感。
どのショットが武器となりえるのかというのを正確に理解すること、ショットには得手不得手があるので割り切ってプレーすること、この2つが必須ですね。
アドブロ+ピュアストVSの場合、武器はフラットサーブ、スライスやボレーは比較的打ちやすい、苦手なのはスピン系ショット全般といった感じ。
結果として試合における得点源はサーブ&ボレー、リターンゲームではリスクを取った強打かスライスで粘り倒すスタイルとなりました。
ハードスペックを使うと上達する:僕は否定派
「ハードスペックを使う事でテニスが上手くなる」っていう意見をみたこともあるのですが、今回ハードスペックを使ってみましたがこの理屈に対しては否定派ですね。
過去の記事でも触れていますが、自分のフィジカルやスキルに合っていないハードスペック、憧れで買った厳しすぎるラケットなど、数々の身の丈に合っていないラケットを使ってきた自分なんですが・・・別に上達してないってのが一番の証明だと思ってます。笑
みんなの意見:否定派が多い模様
10代の頃の僕のように『ハードスペックを使えば上達出来る』っていう考えを持っている人も一定数いるみたいなんですが、Twitter(X)のテニス界隈の皆さんはどう思いますか?🤔
— アドブロ / コトウダマサト(TRUEMAN) (@ADVNTG_kotodama) November 5, 2023
※単純な好奇心なので深くは考えずお気軽にお答え頂けたら幸いです。笑
https://www.youtube.com/post/UgkxyPhMBkJFlAzSiI3rA_lxGkrkFPNnww82
ハードスペックでも実力やパフォーマンスはあまり変わらない
色んなラケットを試してみると、ラケット次第でショットの質や威力は大きく変わります。
しかしその一方で、実際の試合に新しいラケットで臨んでみると自分の実力やパフォーマンス自体はあんまり変わらないっていうのも感じるんですよね。
ハードスペックであっても楽なラケットであってもプレイヤーとのフィット、そのラケットを使って戦う試合への理解度・・・そういったものを培っていかなければ実戦でのパフォーマンス向上は改善されないのかもしれません。